「自己PRを書こうとしても、埋められる欄がひとつもない」
「特技を聞かれるたびに、頭が真っ白になって黙り込んでしまう」
「得意なことを見つけろと言われても、10年探して何も出てこなかった」
発達障害の特性があって、なおかつ「これが得意です」と言えるものが手元にない。その状態で仕事を探すのは、地図なしで知らない街を歩くようなものです。
この記事を書いているのは、三重県の実家で在宅の自営業を5年続けている28歳の人間です。いじめで不登校になり、就職活動は受けた会社がほぼ全滅し、やっと入社した会社は半年でうつ病になって辞めました。うつ病で通院を続けていて、障害者手帳と自立支援医療も使っています。履歴書に書ける立派な要素は、本当にひとつもありませんでした。
ここで扱うのは、眠っている才能の掘り起こし方ではありません。私は自分の内側を10年ほど掘り返し続けて、結局めぼしいものを何も見つけられなかった側の人間です。書けるのは得意がないままの状態で、消耗せずに稼げる場所へどう移動するかという、地味で実務的な話だけです。
▼この記事でわかること
- 得意なことがない人でも通過しやすい職種12個と、その比較
- 「得意」ではなく何を基準に仕事を選ぶかという4つの軸
- 今日から動ける5つのステップ
- 一般雇用・障害者雇用・就労移行支援・就労継続支援B型の使い分け
発達障害で得意なことがなくても、仕事は選べます
最初に結論を書きます。得意なことがひとつもなくても、仕事は選べますし、続けられます。困っているのは能力が足りないからではなく、探すときに使っている基準がずれているからです。
この章では、なぜ「得意を探す」というアプローチが機能しないのかを整理します。ここが腑に落ちると、次の章以降の職種や軸の話が一気に使いやすくなるはずです。
「得意は何ですか」という質問は、困っている人向けに作られていない
就職の相談窓口でもハローワークでも、面談の最初に聞かれるのはだいたい「得意なことは何ですか」です。この質問、答えられなくて当たり前だと私は思っています。
理由は単純で、得意がはっきりしている人は、そもそも仕事選びで詰まっていないからです。詰まっていない人を想定した質問を、詰まっている人に投げているわけで、噛み合うほうがおかしい。
ゲームでたとえるなら、レベル1で装備も持っていない状態のキャラクターに「必殺技を見せてください、見せられないなら村から出せません」と言っているようなものです。まだ覚えていないだけなのに、覚えていないこと自体が失格の理由にされている。おかしいのは質問の設計であって、答えられないあなたではありません。
仕事で求められる「得意」の水準は、想像よりずっと低い
もうひとつ、多くの人が誤解しているのが基準の高さです。得意という言葉を「人より圧倒的にできること」と定義してしまうと、該当者はほとんど存在しなくなります。日本に1億人以上いて、何かで頂点に立てる人が何人いるかを考えれば当然です。
実際の職場で必要とされているのは、そこまでの水準ではありません。その作業を1日続けても、平均的な人よりは苦しくならない。求められているのはこの程度のことです。
私は今SEO記事の執筆と編集で生活費を稼いでいますが、文章がうまいという自覚は一度も持ったことがありません。ただ、8時間ひとりで黙って画面に向かっていても、他の作業ほど消耗しなかった。それだけの理由で仕事になっています。基準を下げるのではなく、正しい高さに戻すという話です。
この記事で扱わないこと
先に書いておくと、ここには「本当のあなたはすごい」といった励ましは出てきません。そういう言葉で立ち上がれるなら、とっくに立ち上がっているはずだからです。
その代わり、職種名・比較表・手順・制度といった、明日から使える材料だけを並べます。読んだあとに「気持ちが軽くなったけれど何をすればいいかわからない」という状態にはならないよう組み立てました。
なお、私は医師でも支援機関の職員でもありません。書いているのは制度を実際に使った一当事者としての体感であって、診断や治療の話ではない点は最初にお断りしておきます。
発達障害で得意なことがない人に向いてる仕事12選
抽象論を先に長々と読まされても疲れるので、具体的な職種から挙げます。ただし、ここに並べた仕事が誰にでも合うわけではありません。あとの章で説明する4つの軸を通過しやすい職種、という意味で選んでいます。
系統は3つ、対人接触が少ないもの、手順が固定されているもの、在宅で完結するものです。章の最後に12職種の比較表を置きました。
系統①:会話の発生量が少ない仕事
工場のライン作業、清掃、倉庫のピッキングや仕分け、設備の点検業務。この4種類が代表格です。
共通しているのは、業務時間中に発生する会話の総量が少ないこと。そして評価が雑談のうまさに左右されにくいことです。離職理由として最も多いのが人間関係だと言われますが、その原因を仕事の構造そのもので回避できるのがこの系統の価値です。
私が会社員だったころ、電話応対と朝礼の司会が本当に地獄でした。その2つがつらすぎて、自分にはもう何もできないとまで思い込んでいた時期があります。あとから振り返ると、数字の管理や資料作成は普通にこなせていました。苦手が視界を占領していただけだったんです。
注意点として、体を使う仕事が多いので体調に波がある人は勤務時間を調整できるかを面接で必ず確認してください。
系統②:作業手順が固定されている仕事
検品や書類チェック、データ入力、校正、経理まわりの補助業務。この系統は、進め方が毎回同じであることが最大の利点です。
段取りを自分で組み立てるのが苦手でも、決められた順番をなぞるだけで成立します。しかもルールを守り続ける姿勢がそのまま評価につながるゾーンなので、苦手が消えるだけでなく加点にも転じます。
ADHD傾向がある人は「単調だと集中が切れるのでは」と心配するかもしれません。実際には、判断が要らない作業のほうが脳の負荷は下がります。切れるのは単調さではなく、割り込みと優先順位の組み替えが多い環境のほうです。
求人を見るときは、繁忙期に業務内容が変わらないかを確認しておくと安全です。
系統③:在宅で完結する仕事
ライター、動画編集、在宅のデータ入力、EC運営代行、コーダー。私自身がいるのがこの系統です。
在宅の本当の利点は、業務そのものが楽になることではありません。移動・身支度・付き合いの会話・人の視線といった、業務の外側で削られる分がまるごと消えることです。私が会社に通っていたころ、体力を最も奪っていたのは仕事そのものではなく、満員電車と昼休みの世間話でした。その2つが日課から抜けただけで、稼働できる時間がはっきり伸びています。
ただし正直に書くと、在宅は自己管理と営業がセットで付いてきます。収入が安定するまでの期間も長い。私の場合、生活できる水準に届くまで3年以上かかりました。ここをごまかして勧める気はありません。
在宅ワークの向き不向きについてはHSPは在宅ワークがおすすめな理由でも詳しく書いています。
12職種の比較表
ここまでの12職種を、選ぶときに効く4項目で並べました。◎○△は私の体感と、周囲の当事者から聞いた話をもとにした目安です。
| 職種 | 対人の少なさ | 手順の固定度 | 在宅可否 | 始めやすさ |
|---|---|---|---|---|
| 倉庫ピッキング・仕分け | ◎ | ◎ | × | ◎ |
| 清掃 | ◎ | ◎ | × | ◎ |
| 設備点検 | ○ | ◎ | × | △ |
| 工場のライン作業 | ◎ | ◎ | × | ◎ |
| データ入力(出社) | ○ | ◎ | △ | ○ |
| 経理・財務の補助 | △ | ○ | △ | △ |
| 校正 | ○ | ○ | ○ | △ |
| 検品・書類チェック | ◎ | ◎ | × | ◎ |
| ライター | ◎ | △ | ◎ | ○ |
| 動画編集 | ◎ | △ | ◎ | △ |
| EC運営代行 | △ | △ | ◎ | △ |
| コーダー | ○ | ○ | ◎ | × |
表を眺めるときのコツは、◎が多い職種を選ぶことではありません。自分が一番潰れやすい項目だけを見て、そこが◎の職種を残す。この使い方をしてください。人が苦手なら対人の列だけ、段取りが苦手なら手順の列だけを見ます。
得意がない人が仕事を選ぶときの4つの軸
職種の一覧を見ても、結局どれを選べばいいのか決められない。そうなるのは、選ぶための物差しがまだ手元にないからです。この章では、私が実際に使ってきた4つの軸を紹介します。得意という基準を捨てて、この4つに入れ替えるだけで判断が驚くほど速くなります。順番に効き目が強いので、上から試してみてください。
軸①:苦にならないかどうかで選ぶ
最初に置き換えてほしいのがこれです。人より上手いかではなく、自分の消耗が少ないかどうかで判断します。
やり方は簡単で、紙に「この作業を1日8時間やったら、夜どのくらい疲れているか」を数値で書き出すだけです。同じ8時間でも、作業によって残る疲労がまったく違うことに気づくはずです。
私の場合はこうなりました。
| 作業内容(1日8時間) | 夜の疲労度 | 状態 |
|---|---|---|
| 電話応対 | 100 | 帰宅後、動けない |
| 雑談ありの接客 | 90 | 翌日まで引きずる |
| データ入力 | 40 | 夕食は作れる |
| ひとりで文章を書く | 30 | 寝れば戻る |
これは才能の話ではなく燃費の話です。同じ能力値でも、弱点を突かれない場所で戦えば生存率は跳ね上がります。
軸②:やりたくないことの消去法で選ぶ
得意は何も浮かばないのに、嫌なことなら10秒で10個出てくる。発達障害の特性がある人には、この非対称がかなり共通していると感じています。
だったら出てくるほうを使えばいい。私が就職活動をやり直すなら、応募条件を眺める前に除外リストを先に作ります。知らない相手からの電話を取り続ける業務、始業時刻が分単位で固定されている出社、業務外の付き合いが人事評価に混ざる文化、案件を並行で回す前提の体制、指示内容がその日の上司の機嫌で変わる環境。私ならこの5つを外します。
このリストで求人を弾いていくと、候補は目に見えて減ります。それでいいんです。残った3個は「続く可能性がある3個」であって、続かない100個より価値があります。
軸③:疲れが翌日に残るかで選ぶ
意外と語られない視点ですが、疲れには2種類あります。やって疲れるけれど寝れば回復する疲れと、翌日まで引きずって生活を削っていく疲れです。前者は筋トレに近く、後者は毒に近い。
私にとって接客の疲れは完全に後者でした。1日働くと、次の日は人間として機能しません。一方で記事を書く疲れは寝れば戻る。この差に気づいたことが、フリーランスを5年続けられた最大の理由だと思っています。
面接や体験で判断するときは、できるかどうかよりその疲れが翌朝まで残るかどうかを見てください。判断材料としてはこちらのほうが正確です。
軸④:職種より環境で選ぶ
正直に言うと、4つの中でこれが一番効きます。体感では、働きやすさの9割は職種ではなく環境で決まります。
データ入力という同じ業務でも、静かでイヤホンを許可している部署と、着信音が絶えず声をかけられ続ける部署では、要求される能力がまったく別物になります。配慮の有無ひとつで、同じ人間が頼られる側にも持て余される側にも振れてしまう。
だから求人票を読むときは、職種名で止まらないでください。どんな場所で、誰と、どのくらいの頻度で関わるのか。ここを確認せずに職種だけで決めると、前と同じ理由で辞めることになります。
得意がない状態から仕事を決める5つのステップ
軸がわかっても、実際に手を動かす順番が見えないと動けません。ここでは、今日から着手できる5つのステップに落とし込みます。全部やっても2時間はかかりません。順番に意味があるので、上から進めてください。特に最初の2つは、就職支援の面談で自分の特性を説明するときの材料にもなります。
STEP1:8時間やったら潰れることを5つ書き出す
紙とペンを用意して、「1日8時間これをやったら自分は死ぬ」と思う作業を5個だけ書きます。長く考えないでください。10分で終わらせます。
得意を探すより100倍速く終わりますし、精度も高い。嫌なことの記憶は具体的で鮮明だからです。私の場合は電話応対、朝礼の司会、飛び込み営業、複数人での会議進行、当日変更の多い予定管理でした。
ここで書いた5個が、このあとの全ての判断の土台になります。得意がない人の仕事選びは、加点ではなく減点回避から始めるほうが現実的です。
STEP2:作業ごとの疲労度を数値化する
次に、経験したことがある作業を10個ほど並べて、それぞれに0から100の疲労度をつけます。軸①で紹介した表と同じ形式です。
アルバイトでも学校の当番でも構いません。数値は主観でいいので、迷ったら直感で入れてください。並べたあとに40以下の作業だけを丸で囲むと、自分が生き残れる作業の輪郭が見えてきます。
この表は面談でも強い武器になります。「コミュニケーションが苦手です」と言うより、「電話応対は8時間で疲労度100、データ入力は40です」と言うほうが、配慮を具体的に依頼できるからです。
STEP3:除外条件で求人を弾く
STEP1の5個を除外条件に変換して、求人サイトの検索結果を上から機械的に落としていきます。1件あたり30秒で判断してください。
迷ったら落とす、が鉄則です。少しでも引っかかる求人は、入社後に必ず同じ場所で引っかかります。私は「たぶん大丈夫だろう」で応募した会社に入って半年で潰れました。あの「たぶん」は、ほぼ確実に外れます。
残るのが3件でも問題ありません。母数を減らすことが目的なので、ここで9割落とせていれば成功です。
STEP4:環境を確認する質問を用意する
残した求人に応募する前に、環境を確かめる質問を3つ用意します。求人票には書かれていない部分を、こちらから取りに行くための準備です。
使いやすいのは次の3つです。1日のうち人と話す時間はどのくらいか。指示は口頭とテキストのどちらが中心か。体調不良で休む場合の連絡方法と、実際の取得実績はどうか。
このうち2つ目の「指示が口頭かテキストか」は、聞いておくと離職率が大きく変わる質問だと思っています。口頭のみの職場は、聞き逃しがそのまま評価の低下になります。
STEP5:3か月続けるための最低ラインを決める
最後に、始めたあとの運用ルールを先に決めます。調子がいい日の目標ではなく、調子が最悪の日でも達成できる最低ラインを1つだけ設定してください。
在宅で仕事を始めるなら「パソコンを開く」だけでその日は合格、という水準で構いません。出社する仕事なら「職場の建物に入る」で合格にします。低すぎると感じるくらいがちょうどいいです。
先に最低ラインを決めておくと、体調を崩した日に「今日は駄目だった」と自分を裁かずに済みます。この裁きの回数が減ることが、継続率に直結します。
発達障害の人が「得意なことがない」と感じてしまう4つの理由
ここまで実務的な話を続けてきましたが、そもそもなぜ自分には何もないと感じてしまうのか。この構造を知っておくと、同じ落ち込み方を繰り返しにくくなります。理由は大きく4つあり、そのうち少なくとも1つは能力とまったく関係がありません。あわせて、避けたほうがいい職場の共通点も整理します。
理由①:苦手の印象が強すぎて、できることが埋もれる
発達障害の特性を持つ人には、能力の高低差が大きいという傾向があるとされています。得意な領域と不得意な領域の落差が、そのまま目立つということです。
この状態だと、周囲も本人も凹んでいる側ばかりを見るようになります。遅刻する、忘れ物をする、複数の指示で固まる、電話が取れない。減点の記憶が積み重なると、突き出ている側が視界から完全に消えます。
私も会社員時代、電話と朝礼という2つの苦手が自分の全能力だと錯覚していました。実際にはできていたことが、印象の強さに押しつぶされていただけです。
理由②:物差しが学校時代の平均点のまま止まっている
学校という場所は、どの教科も平均点付近を維持できる人が高く評価される仕組みで動いています。その環境に9年から12年も置かれれば、満遍なくこなせる状態こそ正解だという感覚が体に染み込みます。
能力の高低差が大きい人は、この採点方式では勝てません。ところが働き始めると事情が変わります。全体を平均的にこなす力より、ひとつの領域が人並みに届いているかどうかで仕事が発生する場面が普通にあるからです。
問題は、その評価基準を卒業後もそのまま握りしめてしまうことです。社会に出れば通用する物差しが変わっているのに、古いほうで自分を採点し続けると、活かせる場所を取り違えたまま年数だけが過ぎていきます。内向的な特性との関係は内向型が生きづらい理由と対処法でも触れています。
理由③:うつ状態が判断を歪めている
ここが一番強く伝えたい部分です。自分には何もないという実感は、能力の測定結果ではなく抑うつ状態そのものが生み出している認知であるケースが少なくありません。
気分が落ち込んだ状態では、物事の解釈が一方向へ強く傾きます。うまくいった記憶は引き出せなくなる一方で、失敗した場面だけが何度も再生される。私も症状が重かった時期は、これまでの人生で完了させたものは何ひとつないと確信していました。
体調が戻ってから振り返れば、高校も大学も出ているし、フリーランスも5年続いています。やり遂げていないわけがなかった。あれは事実ではなく症状でした。今その感覚がある人は、判定を一度保留にしてください。体調が最悪の日に撮った写真で、人生全体を評価しないでほしいのです。
理由④:「好きを仕事に」という言葉が追い詰めてくる
これは完全に世間側の問題ですが、好きなことを仕事にしようという言葉が、働きづらさを抱えた人をかなり追い詰めていると思います。
熱中できる対象がはっきりしていること。それにお金を払う人が存在すること。そして毎日それをやり続ける体力が残っていること。3条件を同時に満たしている人は、周囲を見回してもごく少数です。
大多数の人は「そこまで嫌いではないこと」で生活を回しています。それは妥協ではなく、ごく普通の生存戦略です。将来への不安が強いときは将来が不安しかない時への対処法もあわせて読んでみてください。
避けたほうがいい職場に共通する5つの条件
合う仕事を探すより、危険な職場を見分ける目を持つほうが実際の役に立ちます。私が見てきた範囲では、以下の要素が複数重なった環境で働き始めた人は、かなりの割合で体調を崩しています。
- 並行案件が常に3件以上あり、どれを先に処理するかの判断を一日中求められる
- 依頼が会話でしか流れてこず、あとから見返せる記録がどこにも残らない
- 時期によって残業時間が倍以上に振れ、起床・就寝の時刻を固定できない
- 数字より、飲み会に出たかどうかや上司との相性で評価が動く
- 休むと露骨に空気が悪くなり、体調不良を口に出しにくい
私が半年で辞めた会社は、5項目すべてに当てはまっていました。在籍中は自分の忍耐が足りないせいだと解釈していましたが、離れてから見直すと、あの職場は誰が入っても消耗する構造だったと分かります。問題を自分ではなく環境の側に置いていい場面は、多くの人が想定しているより格段に多いと思います。
一般雇用・障害者雇用・就労移行支援・就労継続支援B型の違い
職種と軸が見えてきたら、次はどの枠組みで働くかという選択があります。ここを知らないまま一般雇用だけで戦い続けて消耗する人が、本当に多い。それぞれ雇用契約の有無も収入も配慮の度合いも違うので、表で整理します。今の体調がどの段階かによって、選ぶべき枠は変わります。
4つの枠組みの比較表
| 枠組み | 雇用契約 | 収入の目安 | 特性への配慮 | 向いている段階 |
|---|---|---|---|---|
| 一般雇用 | あり | 相場どおり | 基本なし | 体調が安定していて、環境を選べる場合 |
| 障害者雇用 | あり | 一般雇用よりやや低め | 前提として組み込まれる | 配慮があれば継続できる段階 |
| 就労移行支援 | なし(訓練) | 原則なし | 訓練そのものが配慮 | 生活リズムと自己理解を整える段階 |
| 就労継続支援B型 | なし | 工賃(月数千円〜数万円) | 体調にあわせて調整 | フルタイムがまだ現実的でない段階 |
金額や制度の細部は自治体や事業所によって差があるので、最終的な条件は必ず地域の窓口や事業所で確認してください。ここに書いたのはあくまで全体像です。
それぞれが向いている段階
一般枠での就職を3回続けて短期離職しているなら、福祉サービスや障害者採用の枠を候補に入れる意味は十分あります。同じ土俵で4度目に挑むより、土俵そのものを移したほうが結果は動きやすい。
障害者雇用の枠は、最初から配慮が織り込まれた状態で働けます。苦手な業務を外してもらえる分、勤続年数が伸びやすい。就労移行支援のほうは、就職の前段階として睡眠や通所のリズムを立て直したり、自分の特性を言語化する練習をしたりする場です。
そして就労継続支援B型には雇用契約がありません。だからこそ週5日フルタイムがまだ視野に入らない段階の人にとって、最も現実的な入口になります。工賃は高くありませんが、通えた日数が積み上がること自体に価値があります。
制度を使うのは負けではありません
白状すると、以前の私はこうした枠組みを「脱落した人が行く場所」として見ていました。今はその認識を捨てています。公的な支援は、条件に当てはまる人が受け取れるように整備された仕組みであって、それ以上でもそれ以下でもありません。受け取らずに倒れるほうが損です。
私も手帳と自立支援医療の両方を利用している側です。申請した当初は、自分がその対象に含まれると認めること自体がきつかった。ところが運用を始めてみると、窓口で払う金額が下がったことで通院が途切れなくなり、その結果として稼働できる日が月単位で増えました。
体面を守るために治療から離れるより、使える仕組みを使って働き続けるほうが、収支で見ても明らかに有利です。
特技も資格もなかった私が、在宅で生活費を稼ぐまでの5年
ここからは個人の記録です。誰にでも当てはまる道筋ではないので、手持ちが何もなかった人間がその後どう転がったか、という観察対象として読んでもらえればと思います。金額も期間もすべて実数を載せました。派手な逆転劇は出てきません。
1年目:文字単価0.3円、月3万円台
退職してからしばらくの間、私は実家の部屋から一歩も出ない生活を送っていました。そこから抜け出すきっかけになったのが、クラウドソーシングで拾った記事作成の仕事です。単価は1文字あたり0.3円でした。
3,000文字書いて900円。時給に直すと300円ほどでした。最初の1年の月収は、多い月でも3万円台。世間の基準で言えば無職と変わりません。
それでも当時の私には、その900円に大きな意味がありました。稼げた額を評価していたのではなく、部屋から一歩も出ないまま自分の労働が誰かに届いたという手応えのほうを見ていたんです。世の中と完全に切り離されてはいないと確認できたことが、次の1件につながりました。
2〜3年目:続いたものだけが残った
その後の数年で起きたことは、驚くほど単純です。やめなかったものだけが残りました。
手を出した分野は他にもあります。動画の編集、コードを書く勉強、仕入れて売る商売。どれも数か月で手が止まりました。唯一、文章を書く作業だけが、寝込んだ期間を何度も挟みながら細く続いていったんです。
ここで気づいたのは、得意は最初に持っているものではないということです。消耗が少なくて続いたものが、あとから得意になる。順番が世間の説明と逆なんです。1日目の自分と1,000日目の自分を比べれば、後者のほうが技術は上がっています。当たり前の話なのに、多くの人は上がった状態を先に用意しようとして詰まります。
4〜5年目:月間20万PV・月商100万円超
開始から5年が経った現在、自分で運営するメディアの数字は月間20万PVまで伸び、売上が月100万円を超える月も出るようになりました。今は10名以上のライターや編集者に業務を依頼する側に回っています。
これは才能ではなく生存の結果です。技術の高い人が勝ち残ったのではなく、消耗が浅かったせいで撤退しなかった人間が最後まで場に残っただけだと考えています。
今そこそこ食えているのは運の要素も大きい。在宅市場が伸びた時期に始めましたし、実家に住めたので生活費を低く抑えられました。全部が実力だとは思っていません。ただ、運が落ちてくる範囲に留まり続けた判断は、自分で下したものだとも感じています。会社員を続けていたら、2度目のうつ病で完全に動けなくなっていたはずです。逃げるという選択をしたから、拾える位置まで移動できました。
体調に波がある人のための「最低ライン運用」
3年続ければいいと言われて素直に続けられるなら苦労はしません。私も波があるので、3年間フルスロットルなど絶対に無理でした。
私が採用したのは、達成条件を極端に低く設定するやり方です。体調が落ちている日についてはパソコンの蓋を開ければその日の目標は完了と決めました。一文字も書けないまま閉じても問題なしです。
これは精神論ではなく実務です。何も触らない日が何日も並ぶと、次に手をつけるための心理的コストが跳ね上がります。そのまま何か月も戻れなくなるパターンを、私は自分でも何度か経験しました。逆に1分でも画面を開いていれば、体調が戻った朝にそのまま作業へ入れます。残高として増えていくのは作業時間ではなく、途切れさせなかった日数のほうだと考えてください。
よくある質問
ここまで読んだ人からよく出る疑問を5つまとめました。どれも私自身が当事者として、あるいは一緒に働いてきた人たちから実際に聞かれた内容です。
Q. 診断を受けていなくても、この記事の内容は使えますか
A. 使えます。ここで書いた4つの軸も5つのステップも、診断の有無とは関係なく機能します。ただし障害者雇用や福祉サービスを利用する場合は、手帳や受給者証などの要件があるので、地域の窓口で確認してください。
Q. 職場に特性を伝えるべきでしょうか
A. 一律の正解はありません。判断材料としては、伝えないと業務が回らない部分だけを、配慮の依頼という形で具体的に伝えるのが現実的だと感じています。「発達障害です」より「電話応対が入ると午後の作業精度が落ちるので、メール対応に寄せたいです」のほうが通りやすいです。
Q. 在宅ワークはどのくらいで生活できるようになりますか
A. 私は3年以上かかりました。半年で軌道に乗る人もいますが、それを標準として計画を立てると資金が尽きます。在宅を目指すなら、生活費を確保した状態で並行して始めるのが安全です。
Q. 何をやっても続きません。どうすればいいですか
A. 続かない原因が「作業内容」なのか「環境」なのかを切り分けてください。同じ作業でも環境が変われば続くことは普通にあります。切り分けにはSTEP2の疲労度表が使えます。
Q. 20代後半や30代からでも間に合いますか
A. 私は23歳で会社を辞めて、生活できるようになったのは5年後です。開始年齢より、消耗の少ない場所を選べているかのほうが結果を左右します。合わない場所で10年粘るより、合う場所で3年のほうが積み上がります。
※本記事は筆者の個人的な経験にもとづく情報であり、医療的な診断・助言ではありません。心身の不調が続く場合は、医療機関や専門の相談窓口にご相談ください。制度の詳細は地域の窓口で最新の情報をご確認ください。
まとめ
発達障害で得意なことがないと感じている人に向けて、職種・軸・手順・制度・実体験を書いてきました。最後に要点だけ並べます。
- 得意がなくても仕事は選べる。詰まっている原因は能力ではなく基準のずれ
- 職種は「対人が少ない」「手順が固定」「在宅で完結」の3系統から探す
- 選ぶ基準は得意ではなく、苦にならないか・消去法・疲れの種類・環境の4つ
- 今日やることは、8時間やったら潰れることを5個書き出すだけ
- 一般雇用で潰れ続けているなら、枠組みそのものを変える選択肢がある
- 得意は最初に持つものではなく、続いたあとに生えてくる
資格も人脈も特技も持たないところから始めて、今は自分の名前で依頼を受け、それで生活が回っています。この先は自家焙煎の珈琲店を持ちたいと考えていて、その準備も少しずつ進めているところです。履歴書の特技欄を前に20分固まっていた10年前の自分にこの状況を見せても、まず信じないと思います。
得意がないのではなく、自分の燃費に合う場所にまだ辿り着いていないだけ。5年かけて自分の体で確認した結論は、これに尽きます。





コメント